どのようにシャトナーを出す案だったのか、まずは取り急ぎ訳してみたのでお読み下さい。
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老スポック
自分で思うとおりにしろ。論理を脇へおき、正しいと思うことを。
君たちが受け継いだ世界は、計り知れない犠牲の影響からは逃れられない。
だが独りで直面する必要はない。
首の周りから、今までは少ししか見えていなかったペンダントを外す。
若い自分のそばにあるテーブルに置いた。
目に見える感情は深いものだ。
引き続き老スポック
これは私に贈られたものだ。
ある夢を…示している。
我々が叶えられなかった夢だ。
(優しく)
今の君なら叶えられる。
ドアへ向かい、立ち止まる。ヴァルカン・サリュートをした。
引き続き老スポック
私の普段の挨拶では利己的に過ぎるからな。
今日はただ…幸運を祈る。
目を合わせる。老スポックは振り向き、通路に消えた。
若いスポックはしばらく誰もいなくなった入口を見つめ、
心では様々な思いが巡っている。ペンダントを見ると、
それはホロ・エミッターだとわかる。少し考えた後、
起動ボタンを押す。立体ホログラムメッセージが
目の前に実体化する。
それはウィリアム・シャトナー演じるジェイムズ・T・カーク大佐だ。
いつものように気が強く、皮肉たっぷりで、自信に満ちている。
歌を唄っている。
カーク/シャトナー
ハッピー バースデー トゥー ユー
ハッピー バースデー トゥー ユー
(歌をやめ、微笑む)
わかってる、わかってる。何もないのに祝うのは非論理的だ。
でも君が大使に任命されたのを祝う機会がなかったから、
いいチャンスだと思ってね。
おめでとう、スポック。
初任務で少しの間、遠くへ行くらしいな。
だから最初に幸運を祈らせてくれ。
それと…
(やや間があり、感情的になる)
君がいなくなるのは寂しいよ、ミスター・スポック。
若いスポックに切り替わり、カークの未来のメッセージに聴き入っている。
だが何よりも、二人の友情は明白であり、疑いようのないものだ。
引き続き通路・内部
老スポックが通路を歩いて行き、看護師と話し合っている男性のそばを通り過ぎる。
男は動きを止め、振り返る。サレクだ。
急に感情が湧き上がる。
いまそばを通った見知らぬ人物に、奇妙な親近感を覚える。
カーク/シャトナー (声のみ)
いつも思ってたことがあるんだ、二人で一緒に宇宙艦隊を辞めるってね。
人生を見つめながら、退役後を過ごす…。
第1宇宙基地・内部、ハンガー、夜
講堂。ガラスの壁の向こうに、ドックにいるエンタープライズが見える。
作業機が浮かび、修理している。
整列したエンタープライズのクルー、400人以上が礼装姿だ。
その顔は皆自信に満ちている。
カーク/シャトナー (声のみ)
いま新しい候補生を目にして、思ってしまうんだ。
本当にそんなに時間が経ったのか?
若い我々がエンタープライズに乗り込んだのは、
まだ昨日のことじゃなかったのか?
私が指揮するにふさわしいと、
クルーに証明しなければならなかったのは。
彼らの尊敬を得るのにふさわしいと。
若いカークの前でカメラは止まる。
落ち着き、集中し、自信にあふれている。まさに男だ。
ファン全員が喜ぶことに、ついに黄色いシャツを着ている。
連邦司令官が演壇に立つ。
司令官
それでは、ジェイムズ・タイベリアス・カーク船長、前へ。
カークは列を離れ、回り、ハンガーを進む。
ウフーラ、スールー、チェコフ、スコッティの前を過ぎる。
みな歓びに満ちている。ただスポックはいない。
カークは階段を上り、気をつけの姿勢を取る。
引き続き司令官
そのインスピレーション豊かな活躍と、
仲間に対する献身は我が艦隊の誇る伝統だ。
自分と仲間、連邦に対して最高の信用を築き上げた。
艦隊命令28455に則り、君は上官と交代し、
今後U.S.S.エンタープライズの指揮を執ること。
カークは振り返り、歩いて行くとパイクがいる。
今や車椅子に乗り、提督の制服を着ている。
いつの間にか、髪の毛は全て白髪になっている。
だが傷を負ったものの、誇りにあふれている。
2人は挨拶を交わす。
カーク
交代いたします。
パイク
これで安心だよ。
膝にある箱を開ける。輝かしく横たわっている、勲章だ。
引き続きパイク
元帥として、コバヤシマルでの君の…ユニークな解答に対し、
独創的な発想だと心から表彰する。
パイクは作り笑いの雰囲気ももちつつ、カークの胸に勲章をつける。
引き続きパイク
(息を詰める感じで)
おめでとう、船長。
カーク
光栄です。
カークは群衆に向き直り、目は輝いている。
大きな拍手が起こり、音楽が巻き起こる。
ボーンズはスールーにもたれかかり、あきれた表情をする。
ボーンズ
時代は変わったな。
カークはクルーのもとに戻り、抱き合ったり祝福されたりしている。
ハンガーの後ろでは…老スポックが見つめている。
何も言わず、感動している。振り返り、独り去っていく。
カーク/シャトナー (声のみ)
君が言いたいことはわかる。
「もう彼らの番ですよ、ジム」
もちろんその通りだが、考えることがある。
宇宙艦隊病院・内部、地球、昼
細切れに音声のみで出ていたカークのメッセージは元の映像に戻り、ここで終わりを迎える。
カーク/シャトナー
我々にはもうできないと誰が言える?
最新の計算では、まだ銀河系の25%しか探索されていない…
私に言わせれば怠慢だ。
犯罪的とさえ言える。これは招待状だ。
君は前に、宇宙船の船長こそ私の最高の天職だと言ったね。
もしそうなら、君の天職は私の隣にいることだ。
何か宇宙に真実の論理があるとすれば…
あのブリッジにいつか戻ることになるだろう。
言葉を止め、微笑む。一番言いたかったことだからだ。
カーク/シャトナー
そうだろ、スポック。
我々のような者には、
旅そのものが…故郷なんだ。
若いスポックの顔は、体中に流れる感情に浸っていた。
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以上です。
完成版でのスポックの対面や表彰式のシーンに割り込む形となっており、一部のセリフは同じものですが設定が異なるところもあります。
シャトナーのカークは「ジェネレーションズ」前のホログラム映像として登場させることで、正史に抵触することを避けています。正確な時代は不明ですが、ST6の後と考えるのが自然でしょうね。
J・J・エイブラムスは脚本家2人にシャトナー用のシーンを書かせたことは認めていましたが、実際にシャトナーは読んではいないそうです。
私は実際に今のシャトナーが演じたらどうなっていたかはさておき、文字で読む限りは本編同様「実に上手い!」と思いました。
でも、ここで読めただけでもありがたいです!!
良いセリフだと思います。
海外でも概ね好評なようです。
感動です。
次回作のどこかに盛り込まれるといいですね。
カークがネクサスに取り込まれた後の葬式でのスポックとボーンズの会話を思い出しました。
実際に映像でこの脚本が見られてたら、人目をはばからず涙したかもしれません
とはいえ、なんだかこのシーンがあったら本当の本当にTOSのカークとスポックにお別れを言わなければいけないような、そんな寂しい気持ちにもなったかも知れません。
そうすれば、DVD/ブルーレイ版で日の目を見れたのに、、、。